■ 大動脈由来

大 動 脈 解 離

 大動脈解離は心臓から全身に血液を送りだす最も太い大動脈の壁が、突然裂けてしまう病気です。大動脈は心臓や脳、腎臓など体のなかの重要な臓器へ血液を供給する大切なルートですので、裂ける範囲によって様々な症状が出現します。多くの場合は突然の激しい胸痛や背部痛で発症します。血管の裂ける方向により痛みの部位が移動することもあります(例えば、胸から背中へと)。生命にかかわる重篤な病気ですので、直ちに救急車で病院に行くことが大切です。
 この病気は高血圧症などがあり動脈硬化の強い中高年者に起こる場合と、若年にも関わらず血管の壁が脆弱な病気を有する人(例えばマルファン症候群)に起こることがあります。胸痛その他の症状を来す他の病気と間違えられやすいため、診断が難しいこともあります。脳への血管が巻き込まれれば半身麻痺の症状が出現したり、心臓を栄養している冠動脈が巻き込まれれば、心筋梗塞を起こすこともあります。腸の血管の循環不全により腹痛をきたしたり、手足の脈が触れにくくなることもあります。心臓を包んでいる袋(心嚢)に血液が急速に溜まって心臓が全身に血液を送り出せなくなる心タンポナーデという病態が起こると非常に危険な状態で緊急手術を必要とします。診断をきちんとつけることが重要ですが、現在は胸部レントゲン写真やCTスキャン、心エコー検査などを行えば解離がどこからどこまで及んでいるか、血管の径の拡大はないかなど多くの情報が得られ、治療方針を立てることができます。治療は解離のタイプによって異なりますが、診断がついたら直ちに解離が拡がらないように、血管が破裂しないように安静を保つことと強力に血圧を下げる治療を行います。心タンポナーデや重要な臓器の循環障害が生じた時は緊急手術が必要となります。
 現在では、心臓から最も近い上行大動脈が解離した場合は原則として手術治療(人工血管に取り替える手術)が行われます。
[石塚尚子・東京女子医科大学心研内科]

大 動 脈 壁 内 出 血

 大動脈壁内血腫という病気は、大動脈の壁の中に出血して、血腫(血液の固まり)をつくる病気です。原因としては大動脈壁を栄養する血管の破綻がいわれていますが、詳細は不明であります。多くは、高血圧の既往のある方におこり、急性の強い胸痛や背部痛で発症します。発症時の血圧は高いことが多く見られます。心筋梗塞などの心臓由来の胸痛と鑑別を要し、診断が困難なため、循環器専門医がいる病院の受診が望まれます。
 この病気の経過ですが、血腫が出来てもそのまま吸収されればいいのですが、吸収されずに破裂する場合や、そこに血液が流れ込んで、大動脈解離という、大動脈の壁が裂ける危険な病気に移行しやすいので、注意深い観察が必要とされています。従って、急性期には入院して、安静を保ち、血圧を下げる治療が必要です。血腫の場所によっては、壁に出血した血管自体を人工血管に入れ替える手術が必要になる場合もありますので、経過中に何回か、コンピュータ断層装置や心エコー図等による画像診断を行う必要があります。また、経過中、肺や心臓の周りに水分あるいは血液が貯まることがあって、その治療もあわせて行う必要があります。適切に治療すれば、予後は決して悪くありませんし、手術になっても手術成績は悪くありませんので、早期診断が重要です。
 急な胸痛や背部痛があれば、すぐに病院を受診することが大事です。運がいい場合は、完全に血腫が吸収されて、全く発症以前と同じ形態に戻ることもあります。
[加地修一郎・川崎医科大学循環器内科]

大 動 脈 破 裂

 大動脈破裂は、その成因より大動脈瘤や解離性動脈瘤など既存の器質的な病変に随伴して生ずる例と、外傷により突発性に発生する例に大別できます。大動脈が破裂すると大出血が生じますが、出血の状況は出血の部位と周囲組織との関係により異なり、様々な病態を呈します。胸腔内に破裂すると、出血を遮る組織が少ないため、急激な大出血がおこり出血性ショックで死亡します。心臓の近傍で破裂が生じた場合には、心膜腔内に出血し心タンポナーデという特殊な低心拍出量状態を引き起こします。肺や気管支に出血すると喀血を生じます。まれではありますが、食道に破裂しますと吐血や下血がみられます。腹部の大動脈破裂では腹腔内に出血します。通常、破裂は後腹膜出血にはじまり、多くの場合一時的に血腫による止血状態を示しますが、最終的には広範な後腹膜内出血をきたしショックに至ります。このため、胸部の大動脈破裂と異なり、一時的に出血が停止した時期に診断がつくと救命できる可能性があります。大動脈の前壁が破裂すると腹腔内に大出血し急速にショック状態に至り、救命の可能性はまずありません。
 破裂まで症状のないものもありますが、破裂前の動脈瘤の急速増大あるいは破裂や切迫破裂により、周囲の組織に対する圧迫症状をきたします。圧迫症状として、気管圧迫では呼吸困難、反回神経圧迫により嗄声、誤嚥、腹部領域の圧迫症状として嚥下困難、腹部膨満、腰痛などが認められます。動脈瘤の急速増大は周囲組織を進展させ動脈瘤に一致した部位の圧痛や胸痛、腹痛をきたします。動脈瘤が解離により生じた場合には、発症時に激烈な胸痛、背部痛、ときには腹痛や腰痛を生じます。外傷性の大動脈破裂は重傷例に多く、他の外傷所見に隠されて診断は困難で、その80%以上は受傷直後に死亡し、診断治療のチャンスがある例は残りの10〜20%にすぎません。
 大動脈破裂は、症状も重篤で進行も早く短時間で死に至ります。発症後の早期診断と早期治療が重要なのは明白ですが、最も大切なのは破裂を来す前に大動脈瘤や解離性動脈瘤の適切な診療を行うことです。高血圧は動脈解離の発生や動脈瘤の拡張を引き起こし、破裂の最大の危険因子と考えられています。このため高血圧を有する例では厳密な血圧管理が必要です。
[石光敏行・筑波大学臨床医学系内科]