■ 心臓由来

心 筋 梗 塞

 心筋梗塞は心臓を養う動脈である冠動脈が主に血栓により詰まってしまうことにより起こる病気です。数時間以内にその詰まりを除去しないとその冠動脈に養われている心筋は壊死に陥ってしまいます。胸痛は胸の中央、または左胸部に鉛のかたまりをのせたような重苦しい強い痛みで、後述の狭心症と違い長く(30分以上)持続することとニトログリセリンが効かないことが特徴です。何も治療をしなければ数時間胸痛は持続します。左肩や左腕、さらには顎や腹部に痛みが放散することもあります。糖尿病を合併した高齢者では、胸痛を自覚しないこともありますが、その場合も「いつもと違って元気がない」、「吐く」などの症状が出ます。
 非常に重症な疾患ですので、救急車でできるだけ早く病院に行くことが大切です。治療の基本は、発症後数時間以内に血栓による冠動脈の閉塞を解除することです。その方法としては、カテーテルを冠動脈に挿入しその先につけた風船をふくらませて血栓を押しつぶすPTCA、血栓を溶かす薬を投与する血栓溶解療法、緊急で手術を行い詰まった冠動脈をバイパスする道をつける冠動脈バイパス術(CABG)があります。さらに、致死的不整脈や心臓のポンプ失調(血液を送り出すという心臓本来の働きがうまくいかなくなる)など種々の合併症が出ますので、それらに対しても治療が必要となります。
[竹中克:東京大学医学部附属病院検査部]

狭 心 症

 こちらも心臓を養う冠動脈の病気ですが、心筋梗塞のように完全に血管が詰まっていない状態です。ただし、狭心症でも重症なものは、いつ心筋梗塞に移行するかわからないという意味で不安定狭心症と名付けられ、心筋梗塞と同じ気構えで対処されます。狭心症は、労作時に起きる労作時狭心症と安静時に起きる安静時狭心症の二つに大きく分かれます。労作時狭心症は、朝の通勤時に駅の階段を上るときにおきる胸部圧迫感が典型例で、じっと休んでいたり、ニトログリセリンを舌の下でなめていると2〜3分以内に痛みが消失するのが普通です。痛みの性状としては、「重苦しい圧迫感」が特徴で、「ここがチクチクと痛い」と指でさして場所が特定できるような場合はそれだけで狭心症でないと言い切ることが可能です。一方、安静時狭心症は典型的には午前3時〜4時頃に胸痛で目が覚めるというもので、ニトログリセリンに素早く反応します。労作時狭心症は動脈硬化により冠動脈が狭窄(狭くなっている)していることが原因で、安静時狭心症は冠動脈が痙攣して狭窄すること(攣縮:スパスム)が原因であることが多いと、両者は成因も大きく異なっています。
 狭心症の治療は器質的な冠動脈狭窄があるか攣縮のみかで異なっており、冠動脈狭窄のない冠攣縮では薬物が著効します。一方、冠動脈狭窄のある狭心症には、薬物療法、PTCA(カテーテルの先につけた風船による狭窄部位の拡張術)などのカテーテルによるインターベンション、冠動脈バイパス術(外科手術)などの治療方法があり、症例毎に最適の方法が選択されます。
[竹中克:東京大学医学部附属病院検査部]

心 膜 炎

 急性心膜炎は、原因不明のものやウィルス性が多く、腎不全、細菌感染、急性心筋梗塞、心膜切開術後、結核、悪性腫瘍、外傷、自己免疫疾患や放射線照射、薬剤投与などによっても生じます。主症状の“胸部痛”は、労作と無関係で咳きや深吸気などにより増悪する特徴があります。聴診器で聴くと心膜がこすれ合う心膜摩擦音が聴取されることもあります。心電図では、冠動脈の支配領域に一致しないST上昇を認めます。心エコー法では、心臓のまわりにたまった水(心嚢液貯留)が検出されることがあり、その水が増えてくると心臓の拡張を妨げる心タンポナーデという状態になり、血圧も下がってきます。こうなると、早急に心嚢を穿刺し水を出す必要があります。原因疾患の治療、安静、鎮痛解熱剤投与、ステロイド投与などが一般的な治療法ですが、特発性、ウィルス性、急性心筋梗塞後、心膜切開術後のなどの急性心膜炎は自然に治ることが普通です。  収縮性心膜炎は、心膜が線維性肥厚や石灰沈着により鎧のように固くなり心臓の拡張を障害し、全身の浮腫を引き起こす病気です。原因として結核やウィルス感染、心臓手術後、膠原病、外傷などがありますが、原因不明のことも少なくありません。全身の浮腫とは、肝腫大、腹水、下腿浮腫、頚静脈怒張などですが、他の浮腫をきたす疾患と違い陰嚢にまで浮腫が来ることが少なくありません。収縮性心膜炎の診断は難しいことが少なくありませんが、心エコー、CT、MRI、心臓カテーテル検査により診断します。治療は心膜切除術が基本ですが、結核性の場合、術前に化学療法を行います。軽症例や手術不能例では、利尿薬投与等を行います。
[園田 誠・東京大学循環器内科]

大 動 脈 弁 膜 症

 心臓の中の血液は、左心室から大動脈を通して全身へ送り出されます。大動脈弁は大動脈から左心室へと血液が逆流しないように左心室と大動脈を仕切る弁です。この弁の病気は、大動脈弁狭窄と大動脈弁逆流の2種類があり、両者が合併していることも珍しくありません。いずれも症状がない時期には健康診断などで心雑音として指摘されることが一般的です。心雑音を指摘されたら、心エコーで精密検査をし、原因を探します。
 大動脈弁狭窄はリウマチ熱の後遺症や加齢による石灰化の進行や先天性に起こる病気です。弁の開放が制限されるために、全身への血液をスムーズに送り出すことができなくなります。進行すると、失神発作、胸痛、心不全などを来します。大動脈弁狭窄は少しずつ進行する病気ですが、これを薬で治す方法はありません。定期的な心エコーによる経過観察が必要で、時機を逸することなく手術治療を行うべきです。
 大動脈弁逆流はリウマチ熱後遺症や先天性、また大動脈弁のそばの大動脈が拡張してしまって起こる病気です。弁がしっかり閉まらないため、血液が大動脈から心臓に逆流してしまい、心臓に負担がかかってしまいます。重症であっても長期間は無症状で経過します。重症の逆流で症状がある場合はもちろん手術を考慮しますが、たとえ無症状でも、定期的に心エコーで経過観察し、左心室の負担がある程度異常になったらときには人工弁置換術を施行します。また、大動脈弁に異常のある方の場合に、口腔内治療(抜歯や歯周病治療)などの後、細菌が血液中に入り、弁に巣くってしまい急性大動脈弁逆流を起こすことがあり、抗生物質を予防投与することが大切です。
[浅川雅子:東京大学循環器内科]

僧 帽 弁 逸 脱

 左室の入口にある僧帽弁は左房への血液の逆流を防いでいます。弁の強度が十分でないと左室の高い血圧によって、僧帽弁が左房の方に逸脱、つまり落ち込んでしまいます。僧帽弁逸脱症は、心エコー検査で20〜30人に一人の割合で発見され、女性に多く認められます。ほとんどの患者さんは一生無症状で寿命を全うしますが、胸痛や疲労感、動悸、めまい、失神発作を自覚することがあります。弁を支持する腱索が断裂したり、二枚の弁尖が完全に閉鎖しなくなると、僧帽弁逆流によって動悸や息切れなどの心不全症状をおこす場合があります。
 胸痛は、狭心症や心筋梗塞に典型的な圧迫感・拘扼感(鉛を胸にのせられたような重苦しさ)で表現される胸部症状とは異なり、不安感・重い感じ・キリキリ痛むなどの症状が多く非典型的胸痛と呼ばれています。安静覚醒時に生じ、運動によって増強せず、ほとんどの症例で冠動脈(心臓を栄養する動脈)に異常を発見できません。不安神経症や自律神経失調症を伴い精神的な要因が疑われる場合もありますが、弁逸脱による心臓の筋肉の緊張が原因であるとの報告もあります。まれに冠動脈の攣縮(スパスム)による狭心症を併発する場合があり、胸痛の性質によっては詳しい検査が必要となります。
 極めて予後の良い疾患ですが、ごく一部に弁手術を受けたり、心不全になる患者さんがいます。脳梗塞・脳塞栓や心内で細菌が繁殖する感染性心内膜炎を併発する場合もあります。僧帽弁逆流が高度な場合には専門医を受診して手術の必要性を評価する必要があります。
[岩永史郎・慶應義塾大学病院中央臨床検査部]

不 整 脈

 心臓では心房と心室が交互に収縮を繰り返しています。心臓を収縮させる電気的興奮は右房にある洞結節で作られ、心室に伝わっていきます。それ以外の異常な心拍が不整脈です。症状としては動悸が一般的ですが、「胸痛」と捉えられることもあります。また、ポンプとして十分働かなくなり心不全を起こしたり、脳に十分な血流が送られず、めまいや失神を起こすこともあります。
 頻脈性不整脈には、主として心房で起こる上室性不整脈と、心室で起こる心室性不整脈があります。最もよくみられるのが、洞結節以外で電気的興奮が起こる、上室性や心室性の期外収縮です。期外収縮は脈としては触れず、脈が飛んだようにみえます。ときに、たて続けに連発する、上室性頻拍や心室性頻拍を起こすことがあります。さらに、調和を完全に失い、細動という状態となることがあります。心室細動は電気ショックなど直ちに処置をしないと命を失う危険な不整脈です。心房細動は直ちに命に危険はありませんが、脈が速くなり、乱れます。
 すべての不整脈が治療を必要とするわけではありませんが、不快感が強かったり、心臓病が隠れていたり、生命に危険のあるものもあります。治療としては、抗不整脈薬が一般的ですが、ある種の不整脈は高周波カテーテル焼灼術により、手術をしなくとも根治可能になってきました。
 徐脈性不整脈には、洞結節が障害された洞不全症候群と、心房と心室の間で伝導が跡絶える房室ブロックがあります。軽いものでは、必ずしも治療の必要はありませんが、突然死や失神による転倒転落事故につながることがあります。薬は徐脈性不整脈には基本的には無力で、治療が必要な場合は、ペースメーカーの植込み手術を行います。局所麻酔だけの簡単な手術で可能です。
[石川利之:横浜市立大学附属病院第二内科]

心 臓 神 経 症

 心臓神経症は、胸痛、動悸、息切れ、めまい等を感じるものの、実際にはこれらの症状と結びつく臓器疾患とくに心疾患が認められないものを指します。つまり本ホームページに掲載されている諸疾患を否定してから、はじめて診断できると言えます(除外診断)。かつては精神的肉体的な疲労が誘因になると考えられていましたが、現在では何ら思い当たる生活背景がなくても発症することも報告されており、特に若年層から中年層までの成人女性に多いといわれています。僧帽弁逸脱症、不整脈、狭心症、心筋梗塞、食道炎、甲状腺機能異常、肋間神経痛、胸壁筋肉痛などは、心臓神経症とまぎらわしいことがあります。しかし臨床経過、心臓超音波、24時間携帯心電図、負荷心電図、血液検査によりおおむね診断はつきます。
 諸症状が複雑に絡み合ってくると、医療機関(多くは一般内科か循環器科)を受診して「大丈夫です」といわれるたびに「確かに変なのに・・・」という気持ちからかえって自覚症状を意識して様々な医療機関を受診する、いわゆる"ドクターショッピング"を始めてしまうことがあります。しかしこれは必ずしも不適切なこととは思いません。受診した医療機関の説明に納得できない時には、信頼できる医療機関を求めていくことは大切です。ただし充分な説明を受け、自分でも「理屈ではわかってるんだけど...」という気持ちに変わってきたときに、内科医師から心療内科あるいは精神科の受診を勧められたときには、すみやかに受け入れることも大切なことです。確かに感じる自覚症状とそれによる精神的ストレスから場合によってはうつ病に移行していくこともあるとされている本症も、内科と心療内科精神科の適切な治療により軽快させることが可能となってきています。
[桑田志宏・東京大学循環器内科]